平成25年12月21日(土),次世代郊外まちづくりの年末交流会が美しが丘中部自治会館で開催されました。(たまプラnetwork主催)
この日は,第2回講評会にむけて実施計画書を提出する締切の翌日。住民創発プロジェクトや提出を終えてほっとする学びの活動から15グループ24名,また,東急電鉄,石塚計画デザイン事務所,地域計画連合からも出席があり,計31名が集まりました。
大野承さんの司会で,今年(平成25年)の一大ニュースや来年の夢,持ち寄りの一品の説明など出席者一人一人がスピーチし,最後は,蒲田健さん,高橋陽子さんのハイテンションな進行のジャンケンゲームで,交流会は大いに盛り上がりました。
(撮影/大野承 ・立山徹 スライドショー編集/立山徹)
グループ名、会社名は略称にさせていただきました。
月別アーカイブ: 2014年1月
次世代郊外まちづくり
世田谷トラストまちづくり
「地域共生のいえ」見学レポート
■地域共生のいえ
まちのお茶の間 「岡さんのいえ」と
ちいきの共働スペース「COS下北沢」を見学しました。
たまプラnetworkでは,昨年12月11日,「世田谷トラストまちづくり(注1)地域共生のいえ」の見学会を行い,たまプラnetworkと交流の森から4人が参加しました。遅くなりましたが,その見学レポートです。
「地域共生のいえ」は,オーナーの意思によって,地域の絆を育むまちづくり活動の場として提供された私有の建物--例えば,子供たちの居場所や子育て支援の場,高齢者や障がい者の暮らしを支える場,地域交流の場などとして提供された家や建物--のことです。財団法人「世田谷トラストまちづくり」が,立ち上げや運営の支援をします。
現在は世田谷区内に13ヵ所あり,それぞれ「お年寄りの心の拠り所」や「インターネット古書店」,「木漏れ日のギャラリー」,「囲碁を通じた集いの場」などのキャッチフレーズを付け,さまざまなスタイルで開かれています。
今回はその中から、地域の人たちが多世代で繋がる拠点をめざす「まちのお茶の間/岡さんのいえTOMO」(上北沢3丁目)と地域貢献型建物として建てられた「ちいきの『元気』を育てる発信基地・ちいきの共働スペース/COS下北沢」(北沢2丁目)を見学しました。
■「岡さんのいえ」は昭和の住まい
京王線上北沢駅の南口を出て徒歩5分。「岡さんのいえ」は昭和24年頃に建てられた築60年を超える家で,上北沢の住宅地の一角にありました。この家に住んでいた岡さんは,明治40年生まれ。仙台出身の敬虔なクリスチャンの女性で,長く女学校で英語を教え,戦後は外務省で働く一方,同居するもう一人の女性(諌山さん)が子供たちに英語とピアノを教え,岡さん自身も休日には,子供たちに英語を教えたり聖書を読んであげたりしていました。岡さんは退職後も昭和50年頃まで,諌山さんとともに教室を続け,地域の子供たちを温かく見守っていました。岡さんが平成18年に亡くなったあと,「地元の皆さんが使える場所に」との岡さんの願いもあり,翌19年(2007年),地域共生のいえ「岡さんのいえTOMO」が誕生しました。
家には古いオルガンとピアノがあり,たたみに座り、ちゃぶ台を囲んでお茶やおしゃべりを楽しむ「昭和の住まい」のかたちがそのまま残されています。また,小さな庭には,モクレンやヤマブキ,ムクゲなど,四季折々に花を咲かせる木が植えられています。
■「開いてるデーカフェ」
「岡さんのいえ」では,毎週1回水曜日に「開いてるデーカフェ」が開店します。私たちも早速カステラや今日のマフィン(ツナ&ポテト)とコーヒーやカフェオレを注文(300円)。
写真左手前は,「岡さんのいえTOMO」編「まち・探検!マップ付き 上北沢いま・むかし」の小冊子です。いま=平成23年と,むかし=昭和20年代・30年代のあそび場とお買い物の様子を地元の人に取材してまとめています。また,昭和50年代,60年代のあそび場やビー玉やメンコの昔遊びの思い出が,まちの人たちやスタッフによって語られています。
この冊子は「まちのお茶の間」をめざす「岡さんのいえTOMO」のスタッフが,上北沢のまちのことをもっと知ろうと「岡さんちからまちに飛び出し」,町会長さんや商店街の人たちなど「色々な人に出会い,まちの色々なことを教えて」もらって,つくったものです。
■「岡さんの家だから・・・を大事にしたいんです」(見守り隊員・額谷さん)
この日,私たちを迎えてくれた見守り隊員(運営スタッフ)の額谷(ぬかたに)さん。いろいろお話を聞きました。現在,見守り隊員は15名程度とのこと。
「岡さんのいえTOMO」は,毎週水曜に開かれます。その時「開いてるデーカフェ」や「駄菓子屋」が開店。近所の子供たちや子連れのママたちが集まります。子供たちは家の中でゲームをしたり,庭で遊んだり。
このほかに,定期,不定期にいろいろなイベントがあります。「岡さんの特別レシピ再現カフェ」(毎月1回)では,岡さんが遺した手書きのレシピ・ノートをもとに,アップルパイやブラウニー,焼きかぼちゃのプリンパイ,チーズビスケットなどを再現。再現するのは「岡さんのいえ」の利用者で「夜カフェ」を開いているパティシエです。
外務省に勤務し,クリスチャンとして教会にもつながりの深かった岡さんは,当時としては珍しい西洋菓子や料理のレシピをたくさんノートに書き留めていたようです。
また,月1回金曜の夜には「食飲会」があります。大人たちがお酒や食べ物を持ち寄って集う地域の飲み会です。
インターンシップの大学生たちが子供たち向けのワークショップを企画したり,見守り隊員が上北沢小学校に出張授業に行き,小学校との交流も始まりました。
そのほか,雛まつりや七夕まつり,クリスマス会,古いオルガンで岡さんが遺した楽譜から選曲して演奏する「お茶の間コンサート」や中学生がお裁縫をする「チクチクカフェ」,世田谷美術館の子どもワークショップ「岡さんのいえで映画をつくろう!」など,さまざまなイベントがこれまで行われてきました。
レンタルスペースとして部屋貸しもしていて,12月はベビーマッサージやキッズ英語, ハワイ語講座などが利用していました。
■表紙のイラストが素敵な「岡さんのいえTOMOしんぶん」
年2回発行。
■この日,来ていた明治大学の学生さんたち
2年生でボランティア講座をとっている,けいきくん,かなちゃん,じゅんちゃんの3人組。子供たちのオセロの相手をしていました。
■「岡さんのいえ」は「おばあちゃんの家」
「岡さんのいえTOMO」の見守り隊員(運営スタッフ)には,子供の頃,岡先生に英語を習い,今は地元自治会の防災部長をやっています,という男性や大手ディスプレイデザイン会社に勤めていました,というイラストの名手,大学院で都市計画・まちづくりを研究中の女性など,多士済々。学生から70代まで世代もいろいろです。
この日お話をうかがった額谷さんは30代で,もともとはレンタルスペースの借り手で1日カフェをしに来たのが,岡さんの親族で,現在のオーナーの小池さんに声をかけられ,岡さんの家や小池さんの人柄に惹きつけられて,とうとう運営スタッフになってしまったのだそう。
「岡さんのいえTOMO」は,古い家のつくりに「おばあちゃんの家」に遊びに行ったような不思議な安心感があり,地域の大人や子供が気軽に集える場になっていることも,なるほどと頷けました。
運営スタッフの皆さんは,岡さんがここで暮らしていたことや岡さんの子供たちへの思い,子供たちがピアノや英語,聖書などを通していつもここに集まっていたこと,そして岡さんが生きていた昭和の時代を大切にして,地域の人たちが多世代で繋がる拠点をめざしています。
■悩みはボランティア不足
「この1,2年は,レンタルスペースの利用料金で,ようやく岡さんの家の固定資産税が払えるようになりました。また,イベント開催などは,行政の助成金を利用してできる場合があり,それでなんとかやれますが,見守り隊員の人件費はどこからも出ません。隊員のなかには埼玉から来ている人もいるので,せめて交通費だけでも出せたら,と思うのですが」と額田にさんは言います。「今は週に1日だけのオープンですが,本当なら土日のどちらかは開けたいし,部屋貸しももっと稼働率を上げたいのですが,それには鍵を管理するためにもボランティアが出てこないといけない。となると,活動できるボランティアが現状では足りません」
やはり無償の活動には限界があります。でも,皆さん「岡さんのいえTOMO」を大切に思い,見守り隊員のそれぞれがいろいろな思いを持って,上北沢のまちや人,子供たちと絆を深めながら,次々と新しい魅力的な企画をたてて活動を続けています。
■「ちいきの『元気』を育てる発信基地,ちいきの共働スペース/COS下北沢」
上北沢の駅にもどり,また京王線に乗って明大前で井の頭線に乗り換え,下北沢へ。西口から出て迷いつつ徒歩10分。商店街を通り抜け,住宅街をウロウロ。
■途中にあったこの標識に助けられて,ようやくたどり着きました。
■これがCOS下北沢の正面入口。
COS(co-operative space)下北沢は,平成16年(2004年)に,約2年の話し合いを経て,オープン,今年10年目を迎えます。
この建物は,もともと築30年の木造2階建てのアパートでしたが,老朽化による建て替えの際,オーナーは「社会や地域に役立つ建物にしたい」と考え,建物を長期的に運営する団体をさがすことになりました。そして,平成13年(2001年)12月,この話が,土地建物の活用や家づくりをサポートするNPO法人SAHS(サース)(注2)に来たところから,COS下北沢は始まります。
オーナーは学生時代を下北沢で過ごし,現在は名古屋で高齢者福祉施設を経営されています。
■6団体が入居してCOS下北沢を運営
SAHS(サース)の呼びかけで7団体が名乗りを上げ,翌平成14年(2002年)7月には「COS下北沢をつくる会」が立ち上がりました。結局,一時預かり保育の団体,レンタルギャラリー,まちづくり活動支援団体,手作り惣菜宅配の団体,カフェと建築事務所の6団体の入居が決まり(現在カフェは閉店),「つくる会」立ち上げからほぼ1年半後の平成15年(2003年)12月には,COS下北沢の運営を担うNPO法人コスファCOSFA(co-operative space for all )が設立されました。
一棟一括借り上げを希望するオーナーとの契約のためにも,法人格が必要でした。コスファは入居の6団体からそれぞれ1名以上の理事を選出して組織されています。また,事務局は入居団体のひとつ,まちづくり活動支援団体(まちづくり広場ザワーズ)が請け負うかたちです。
■資金集めは?
COS下北沢の建設費用は約5000万円。当初,オーナーはこの土地を定期借地とし,事業者が建設することを望んでいましたが,資金を入居団体や地域で集めることは厳しいと判断し,結局自身で資金を調達。その代わりコスファも2割相当の1000万円の基金(保証金)を集めて提供し,20年後の契約終了時に返還されることになりました。
1000万円といえども大変ですが,コスファは,これをほぼ1年間で集めます。出資件数は80件。1件あたり100万円から2000円まで。
「夢に投資しませんか(20年後に利子はつきませんが,お返しします。)」というような呼びかけでしたが,振り返ってみれば,呼びかけた人たちの日頃の活動への信頼感が大きかったことが力になった,とのこと。
そして,平成16年(2004年)9月,ついにオープンの日を迎えました。
■大変だけど,いろんな人との出会いが楽しい。(事務局の相馬さん)
この日,お話を聞いた事務局の相馬さんは,「地鎮祭ぐらいから」COS下北沢にかかわり,事務局の仕事をされています。
相馬さんは,入居団体のひとつ,まちづくり活動支援団体「まちづくり広場ザワーズ」のメンバーで,事務局は「ザワーズ」がコスファ(=COS下北沢)から請け負い,同時に地域の人たちとCOS下北沢をつなぐ役割も果たしています。
入居の個々の団体はそれぞれに活動していますが,COS下北沢の運営自体は,おもに1Fホールの利用料金などでまかなわれています。
平成23年,24年とホールのカフェや床などの整備が行われたのに続いて,昨年は2つの支援制度の助成金(世田谷トラストまちづくり,セブンイレブン記念財団)を使って,建物正面の植栽脇に「地域のベンチ」をつくり,近隣と連携して緑を増やす活動を開始しました。現在閉店している1Fのカフェについても、あり方を含め,再開を検討中のようです。
次の10年にむけて,地域の発信基地,「ちいきの共働スペース」としてのCOS下北沢の活動がさらに期待されています。
■1Fホールで,事務局の相馬さんのお話を聞きました。
■1Fホールのレンタルスペース
イベントや教室,講演会などに利用されています。
これまでの利用団体は,老化防止体操,麻雀,裁縫,マップづくり,ニットカフェ,ボタニカルアートなどさまざま。
■最後に相馬さんと記念撮影
左から藤本さん,相馬さん,辺見,千葉さん
岡さんのいえTOMO http://www.okasannoie.com/
COS下北沢 http://cosfa.main.jp/
(注1) 一般財団法人 世田谷トラストまちづくり http://www.setagayatm.or.jp/
(注2) NPO法人SAHS(サース)
=「特定非営利活動法人せたがやオルタナティブハウジングサポート」
http://www.npo-sahs.com/
(写真 立山徹・辺見真智子)
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