2014年3月31日たまプラーザ地域ケアプラザで、たまプラnetwork主催、起業勉強会「ソーシャルビジネス起業と持続発展に求められる視点」が開かれました。
講師はETIC.の佐々木健介さんです。出席者は19名。
■ETIC.とは
ETIC.(特定非営利活動法人エティック)は、ソーシャルビジネスの起業支援を通して起業家型リーダーの育成と社会のイノベーションを目指すNPOです。
1993年早稲田大学で起業家を目指す学生が集まり、勉強会としてスタート、1997年事務局機能の拡大にともない、事務局の名称を「ETIC.(エティック)」に統一。学生団体からNPO事業体へ移行しました。
2000年3月経済企画庁(現内閣府)よりNPO法人(特定非営利活動法人)に認証。
2008年は企業連携を強化した年です。この年に起こったリーマンショックにより、なぜ働くか、が問われるようになりました。また、企業の社会的役割が問い直された年でもあります。
2011年は、3月11日に東北大震災が起きた年です。この年は震災復興リーダー支援プログラムを立ち上げ、仕事を辞めて復興の手伝いに若者たちが東北に向かいました。
ETIC.は組織に依存せず、自立したい、自分の想いと仕事の距離を近づけたい、社会も地域も家族も自分も生かしていく可能性を求める若者を応援してきました。
新たな時代の一つの生き方として社会起業家が注目された年でもありました。
スタッフは70名(うち専従36名)※2013年12月現在HPより
今回お話をしていただいた佐々木健介さんはインキュベーション事業部マネージャーをされています。
■企業は社会的役割を、NPOは価値創造を。
何をどうすれば満足できるのか?
1990年のバブル崩壊以降、経済成長が停滞したことから、若者たちに変化が現れました。今までのように企業に勤めて、与えられた仕事をするよりも、何か地域の役に立ちたい、人の役に立ちたいと考える若者が出てきました。それを受けて企業も、ただ商売をして儲ければいいという姿勢から、社会的役割を果たすことが求められるようになりました。NPOが注目を集め始めたのもちょうど同じ時期です。
ここでいくつかの問題が起きました。
例えば、地域活動はどうしたら事業化できるか?
地域に貢献することでメシが食えるかということです。
地域活動は、そもそも行政や企業が取り組まない、あるいは取り組めない分野です。というのも、注目度が低く、元々採算が取れない分野だからです。
NPOはそこで、ボランティアという枠組みを超えて、社会的企業(ソーシャルビジネス)と言う新しいジャンルを作り始めていきました。
そこでは、NPOが新たな価値を創造し、その担い手として発展していきました。
ETIC.ではそれらをふまえて、2001年にソーシャルビジネスを行う社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)支援をスタートさせました。
さて、地域活動は、息長く継続的に、多くの人を巻き込む動きにすることこそが重要です。
そこで、我々が考えなければならないのは、
なぜそのプロジェクト(地域課題の解決=地域活動)をするのか?
どこまでやりたいか? 何をどうすれば満足できるのか?
そこに自分はどこまで関与したいのか?
何ができそうか? 何は他の人に委ねなければならないか?
と、いうことだと佐々木さんは言われます。
■実現したいことは何か?
さらに、事業化するに際して、問い直すべきことがあります。
実現したいことは何か?
自分の最適な関わり方は何か? 仕事として? 地域活動として?
あるいは、そのプロジェクトの中で専門家役なのか、火付け役なのか、事務局役なのか。
また、事業化は本当に必要なのか? ボランタリーな動きでも継続可能なのか。
独立した組織が必要なのか? 既存の組織を活用できないのか。
続けることが本当に必要な活動なのか? きっかけづくりや起爆剤としての役割を果たせばよいのではないか。
みずからの問題意識を絶えず問い直し、どんなサービスを届けたいのか? 対象は誰なのか? 自分の強みは何なのか、足りない部分はどこで、どうやって補うのか? 他の人とどうやって組んでいくのか?
たくさんのことを検討することが求められます。
■3年後のあるべき姿を描くこと。
事例紹介。
佐々木さんは、これらの答えを出す一つの方法として「3年後のあるべき姿を考える」と言われました。
3年後に何をするか、どこまでやるか、どういう体制でやるか、3年後のあるべき姿を描くことによって、今自分がやるべきことが明確になります。
いくつかの事例が挙げられました。
最初の事例は、がん患者の相談に乗る専門家集団のネットワークを作った北海道の女医さんの話。(杉山絢子さん "がん"のよろず相談窓口 CAN net)
3年後の目標は、年間5000人の相談に乗れる状況を作りたい。年に5000人ということは、月に約400人。相談者が一人二人ではとても無理です。そこで、まず相談の内容を把握して専門家に振るための5人の事務局を雇うことを決めました。こうやって具体的な数字を決めることで、事業に必要な人員、予算、組織構成などが見えてきます。
次の事例は、日本酒で地域を元気にする活動「出張日本酒BAR」。(道前理緒さん)
常設の店舗を用意して経営していくのは大変ですが、一夜限りの店を地域で場所を借りて開くなら可能ではないかというアイデアです。
この出張BARは、大の日本酒党の道前さんがセレクトした極上の日本酒が飲めるということで、ネット上の呼びかけで来た人たちや一夜だけ開いているのでちょっと行ってみようかという近所の人たちが集まって盛り上がっているそうです。
また、介護者の支援事業の事例(誰もが自然に介護ができる社会を目指して「となりの介護」川内潤さん)や悩みを持つ人をサポートする(傾聴ボランティア)NPOが市の受託事業として年間900万円で始めた事業の事例(特定非営利活動法人アーモンド コミュニティ ネットワーク)なども紹介されました。
■着眼大局、着手小局
3年後、どうなりたいか、何をどうしたいか、漠然とではなく、具体的にそれを考えて、出していきます。次に出てきたあるべき姿を実現するにはどうしたらいいか、具体化していきます。考える段階で、忘れてはならないことは、必ず紙に書き出して、見える形にすることです。
この作業を何度も繰り返し行うことで、徐々に考えとあるべき姿がまとまっていきます。
ここで重要なのは、「着眼大局、着手小局」。まず、眼をつける時は全体を大きく見て想を練り、そして、実践は小さなことを積み重ねていきます。
具体化する段階では、対象の絞り込みを行います。対象をどうするか、初めは対象を絞り込み、徐々に対象を広げていった方が成功する確率は高くなります。
■「ポジティブな解体」もアリ。
また、この段階では、各メンバーが目指すものがはっきりしてきます。自分の目指すものと違うことをしても徒労に終わることが多く、途中でやめることになりがちです。
この段階では、目指すものが違えば、組織とメンバーがポジティブに解体したり、別のメンバーが加わったりすることも大切なことです。
■ボランタリーな活動で行われる「まちづくり」は、より多くの人を巻き込んでいけるのか・・・
勉強会参加者は、次世代郊外まちづくり住民創発プロジェクトの関係者が大半でしたが、今後それぞれのプロジェクトを継続していく活動資金をどうするのか、また活動にかかわる人はずっとボランティアの奉仕でいいのか、実は大きな問題をどのプロジェクトも抱えているようにみえます。
とりわけすべてがボランタリーな活動で行われる「まちづくり」は、本当の意味で社会的な認知が得られるのか、より多くの人を巻き込んでいけるのか・・・こんな想いから、この勉強会は企画されました。
プロジェクトにかかわる一員として、改めて佐々木さんの問いかけの一つ一つを検証していきたいと思いました。
ETIC. (Entrepreneurial Training for Innovative Communities.)
https://www.etic.or.jp/
CAN net
http://can-net.jp/
となりの介護
http://blog.livedoor.jp/kawajun1980/
特定非営利活動法人アーモンド コミュニティ ネットワーク
http://almondcommunitynetwork.com/
(写真/辺見真智子 文/立山徹)